溶融亜鉛めっきとは

溶融亜鉛めっきは、亜鉛によって鉄の表面に皮膜を作り、鉄の表面が化学反応を起こさないように空気との接触を遮断することによって、さびから「鉄」を守る技術で、他の表面処理法では得られない高い防食効果があり、「鉄」に対する最も優れた防錆法と評価されています。

亜鉛めっきの歴史は、古く1742年にフランスの化学者Melouinによってその方法が発表され、1836年には同じくフランス人のSorelが特許を取得し、パリにおいて世界で初めて工業化されました。
その後、イギリス、ドイツ、オーストリアとヨーロッパ各地に亜鉛めっき工場が建設されています。

わが国では、1876年(明治9年)頃に長崎で試験的にはじめられたと言われており、1908年(明治41年)には、日本で最初の構造物の溶融亜鉛めっきが大阪で工業化されています。

現代社会に必要不可欠な鉄鋼製品を腐食から守り、長期間の使用に耐えることができる溶融亜鉛めっきの技術は、省エネルギー、省資源リサイクル、低ライフサイクルコストといった数々の利点から時代のニーズに最も適した防錆方法です。

溶融亜鉛めっきのしくみと優位性

亜鉛めっき層図解
優位性
  • 大気中、海水、土壌中でも、優れた耐食性を発揮
  • 他の防食加工と比較し、ライフサイクルコストが安い
  • 複雑な構造のものでもめっき加工が可能
  • 密着性に優れている

溶融亜鉛めっきの2大特徴

1.亜鉛の保護皮膜作用

鉄素地の上に密着性の良い連続した亜鉛皮膜を作り、外部の腐食環境から鉄を遮断する遮閉帯としての作用を果たします。空気や水を通しにくく安定した性質を持っています。

亜鉛:素地→さび生成(緻密なさびの薄膜が発生)→さび生成後(緻密なさびの薄膜が保護皮膜となる) 鉄:素地→さび生成(粗なさびが生成)→さび生成後(鉄さびは保護能力がない為、さびが進行)

2.亜鉛の犠牲防食作用

亜鉛皮膜が欠損して鉄素地が露出しても、その周囲の亜鉛が「鉄より先に溶け出して」電気化学的に保護するため、鉄をさびから守ります。
塗装皮膜またはクロム、ニッケル、錫などの金属皮膜にはこのような作用はありません。

亜鉛めっき:素地(亜鉛層 鉄素地)→キズ発生→腐食発生(亜鉛の犠牲防食作用により鉄は腐食されない) 塗装:素地(塗膜 鉄素地)→キズ発生→腐食発生(粗い鉄さびにより皮膜が破れ腐食が進行する)

溶融亜鉛めっきの特性

優れた耐久性

緻密な保護皮膜と電気化学的防食作用により、大気(排気ガス)、海水、淡水、土壌(地中)、またはコンクリート中などの厳しい環境条件から鉄を守り、鉄の寿命を大きく延ばします。

亜鉛付着量と環境別耐用年数の関係
環境別溶融亜鉛めっき耐用年数比較

経済的でメンテナンスフリー

防錆効果が長時間持続しますのでメンテナンスの必要がほとんどなく、長期的に見れば他の表面処理法に比べはるかに経済的です。

強固な密着性

鉄素地と亜鉛とが互いに反応して緻密で厚い合金層を形成し鉄に強固に密着しますので、衝撃や摩擦に強く鉄素地を守ります。

隅から隅まで均一に

めっき槽に浸漬することにより、複雑な構造のものでも隅々まで溶融亜鉛めっきがゆきわたり、均一な亜鉛皮膜が形成されます。

溶融亜鉛めっきの経済性

防食費用には

初期費用…初めにどの位の費用がかかるのか?
維持費用…保守にどの位の費用がかかるのか?

の2種類があり、その合計が防食費用になります。
溶融亜鉛めっきの特長のひとつは、防食寿命が非常に長く、その期間中は維持費用を原則的に必要としないことです。

初期費用が溶融亜鉛めっきより安価な表面処理はありますが、それらの表面処理は比較的短期間に防食能力がなくなるために維持費用がかかり、合計費用では溶融亜鉛めっきより高価になります。

溶融亜鉛めっきと同様に鋼構造物の長期間防食に使用されている塗装とを比較すると、図のようになります。

一般鉄鋼製品について

溶融亜鉛めっき加工費用は、1トン単位で決められています。他方、塗装費用は塗装種類により異なり、1㎡単位で決められています。
そこで、溶融亜鉛めっき加工費用は鋼材肉厚が4mm、8mmおよび15mmの3種類を選んで1㎡当たりに換算し、塗装からは比較的多用されている2種類を選んで溶融亜鉛めっきと塗装との経済性を比較しました。

(1)費用の比較

以前は「溶融亜鉛めっきは保守的には費用がほとんどかからないが、初期費用が高い」というのが一般的な通念でしたが、最近ではその差が平均的にはほとんどなくなっています。

製品の肉厚が比較的薄い場合には、むしろ溶融亜鉛めっきの方が安価になっております。この主な原因は人件費が年々上昇しているためです。溶融亜鉛めっきは工場で加工されるために、加工費用の中で人件費の占める割合が塗装に比べて少なく、従って溶融亜鉛めっき加工費用の上昇が比較的緩やかであるのに対し塗装費用の上昇が大きくなっております。

(2)維持費の比較

塗装は通常数年の周期で塗り替えを必要としますが、溶融亜鉛めっきは防食寿命が続く限りの長周期、維持費用を必要としません。溶融亜鉛めっきの方が経済的に有利であることは疑う余地はありません。

(3)総費用の比較

溶融亜鉛めっき加工費用と塗装費用について、初期費用と塗り替え費用の例を表に示します。

溶融亜鉛めっき ※1 塗装 ※2
A鋼材 B鋼材 C鋼材 例1 例2
初期費用(円/㎡) 1,226 2,448 4,594 2,573 3,664
塗り替え 費用(円/㎡) 0 0 0 2,038 2,584
周期 5年 10年
回数(回) 0 0 0 5回 2回
小計(円/㎡) 0 0 0 10,190 5,168
合計金額(円/㎡) 1,226 2,448 4,594 12,763 8,832
防食能力残存価格(円/㎡)※3 -591 -1,181 -2,804 0 0
差引実質経費(円/㎡) 635 1,267 1,790 12,763 8,832
  • ※1
    溶融亜鉛めっきA鋼材、B鋼材、C鋼材の肉厚をそれぞれ、4mm、8mm、15mmとし、めっき層寿命を58年、58年および77年を見込んでいます。
  • ※2
    (例1)
    下地調整:C種(ディスクサンダー)
    下塗り:鉛系さび止め塗料1回
    中塗り:合成樹脂調合ペイント1回
    上塗り:合成樹脂調合ペイント1回

    (例2)
    下地調整:C種(ディスクサンダー)
    下塗り:ー
    中塗り:エポキシ樹脂塗り3回
    上塗り:プライマー含む

    塗り替えはそれぞれ同一塗装仕様とし、塗り替え面積を塗装面積の半分、下地調整をケレン3種Cに変更および足場費を含むとして費用を算出しました。
  • ※3
    溶融亜鉛メッキの場合:めっき費用(円/㎡ ) 耐久寿命(年) (耐用年数(年)-使用期間(年))